【4章ー1】サムライRYO、初陣!

【4章ー1】サムライRYO、初陣!

【これまでの連載のまとめ】

  子どものときなりたかった職業に就いている大人はどのくらいいるのだろうか。その前に、子どもの頃のワクワクを高校生、大学生になっても抱き続けていられる人って、どのくらいいるのだろう。

 ずっと憧れていた街、東京の空の下に僕はいた。有名アーティストが下積み時代にライブをしていたライブハウスのステージにも立った。子どものときの僕に今の自分の話をしたら、きっと目を輝かせて聞いてくれるだろう。

 そんなことを考えながら、いつもの商店街を歩いていく。今年は猛暑だとマスコミが騒いでいるが、確かに暑い。六月からすでに暑かったが、七月上旬には山梨や群馬で三十九度以上を記録。育った多治見も暑かったが、コンクリートに囲まれた東京の暑さは種類が違う。散歩するにも、水分補給しながらじゃないともたない。やっぱり家に帰って読書しよう。僕は踵をかえして、もと来た道を戻った。

 胸のあたりがもやもやするのは気候のせいだけじゃなかった。これまで続けてきた音楽活動に専念しようと大学を休学したものの、三ヶ月で燃え尽きてしまった。ボイストレーナーのマサさんは「音楽以外のことがあるから歌も豊かになる。いろいろ経験しなよ」と僕の背中を押してくれたが、何をしたらいいのだろうか。

 部屋に帰ると、本棚から一冊の本を取り出す。東京にきてから買った本はすでに千冊くらいになっていて、物理、科学、経済、政治、宇宙、哲学とジャンルはばらばらだったが、どの本にもびっしりと書き込みがされている。読みながら思ったことを書き込んでいく。それが僕の読書スタイルだからだ。

 手に取ったのは歴史の本だった。幕末について書かれたその本にも、線や文字がたくさん書き込まれている。すでに暗記している一文が目にとまる。

「志とは士(サムライ)の心と書く。志とは、世のため人のためのものだ」

 「志」という漢字はもちろん知っていたし、東大で日本語日本文学を専攻しているくらいだから漢字も好きだったが、「志」にそういう意味があると知ったとき、衝撃を受けた。小学生のとき、大河ドラマ『利家とまつ』にハマってから、僕はずっと前田利家に憧れていて、「サムライ」になりたいと思っていた。そのサムライの心とは、世のため人のためのものなのだ。

 歴史上に名を残した武将や志士たちは、みな十代、二十代の頃から「大義」のために策を練り、戦い、活躍していた。僕も彼らと同じくらいの年齢になっていたが「世のため」なんてまったく考えたこともなかった。自分一人のためなら、それは夢であって志ではない、とその本の著者は言う。それであれば、僕が音楽をやってきたのは自分のためだから、志ではないのだろう。武道館でのワンマンライブも自分の夢だ。音楽で成功することは志じゃなかった。

 「志」この言葉が心にひっかかっていた僕は、アマゾンで「志」というキーワードで出てきた本を全部購入し、読んでみた。そうすると、日本の偉人だけでなく、古今東西みんな何かしらの「志」を持ち、それを貫く生き方をしていたことがわかった 。高校のときから「ROCKを貫く」なんてカッコつけて言ってきたけど、僕は何のために、それを貫きたかったのだろうか。

 振り返れば振り返るほど、僕は自分のことしか考えてこなかったのだと思った。やってきたことに後悔はないけれど。

 戦争もなく食べるものに不自由せず、教育もしっかり受けさせてもらえる環境で当たり前に育つということは、人類史上、そもそもとても恵まれていることなのだ。それなのに、自分のためだけに生きていていいのだろうか。そのことに意味はあるのだろうか。

 そんな風に考えると、このまま自分の夢だけを追い続けることに虚無感を感じてきた。じゃあ自分には何が出来るのだろうか?何をやれば人の、社会の役に立てるのだろうか。

 誰かに教えてもらうというものでもなく、僕が自分自身で答えを見つけるしかない。音楽活動を休止してからというもの、そのことだけをずっと考えていた。僕がずっとやってきたのは音楽だ。でもその音楽の方向性に迷っての今だから、そこに活路を探してもしょうがない。何か別の、人が喜んでくれて、人の役に立つことで、僕が好きでやってきたことはないだろうか。

 ふと本棚に目をやる。そこに並ぶ本の背表紙から「歴史」という文字が目に飛び込んできた。そうだ。歴史も好きで、いろんな人に小話を披露して、喜んでもらったな。高校のときだって、化学史、物理史、数学史。それを知ることで勉強が楽しくなるんだ。だからそれを教えるべきだって熱くなって友達に引かれたっけ。でも歴史って、今生きる人にこそ必要なんだよな。楽しいだけじゃない。そこには生きていく上でのヒントもあるし、日本文化だって、知れば知るほどちょっとした日常が彩り豊かになる。

 でも、みんな歴史って言葉だけでアレルギーを起こす。難しい。分からない。伝統文化、伝統工芸、着物、神社仏閣、お城、その単語だけで、なんだか難解で自分には関係ない世界のように思ってしまう。アイドルと漫画・アニメとかポップカルチャーだったら日本の文化だって誇り持つのにもったいないよなあ。

 今当たり前に触れている文化について少しだけでも歴史を知れば意識が変わる。意識が変われば生活が変わる。文化が濃くなる……歴史の有用性を伝えて行くことは、社会的に意味がある!日本文化、歴史という切り口。これだ!

 幕末を生きた山口・長州の吉田松陰は松下村塾でこう教えていた。

「大切なのは、立志、読書、択交、そして、知行合一」

 「立志」とは志を立てること。どんなに優秀な能力があっても、社会の役に立たなければ意味がない。そしてそこには志が必要だ。「読書」は文字通り、読書だ。「択交」とは良き人と繋がっていくということ。そして「知行合一」とは、知ることと行うことは合わせて一つ。つまり知るだけではなく行動してはじめて意味を持つということ。行動が大事なのだ。

 日本の文化や歴史を、ポップに、分かりやすく伝えていくこと。それが、僕にとっての志だ!見つけた!これなら、今まで僕がやってきたこと、すべてが繋がる!歴史の曲をつくって、MCで小話をするんだ。そうやって、日本文化や歴史の魅力を伝えていく、そういう人になるんだ!

「立志」は定まった。あとは「択交」これを実践していこうと決めた。

 マサさんにその話をすると、めちゃくちゃ面白がってくれた。

「じゃあさ、サムライになっちゃえばいいじゃん!」
「え?なるんですか?」
「だって、好きなんでしょ。サムライになって、魅力を伝えていけたら、めっちゃいいじゃん!学校の勉強じゃなくて、音楽とかエンターテイメントにしていけば、きっとみんな面白がってくれるよ」

 じゃあ具体的に何をしたらいいのか。バンドに和楽器を足してみる。……取ってつけた感ハンパない。エンターテイメント性が足りない。

「ダンスミュージックは?今さ、海外でEDM(エレクトリック・ダンス・ミュージック)が流行り始めててさ。新しく来るものに和楽器を組み合わせていけば、世界初だよ!」

 マサさんのおかげで、音楽的な方向性も決まった。

 サムライの格好をして、歴史の曲を歌い、歴史や日本文化の小話をする。とはいえ、僕はずっと理系で、三年で文転したとはいえ歴史や文化を研究しているわけではなかった。でも「それくらい詳しくて実績がないと」とは思わなかった。東京で音楽活動をしていくうえで感じていた「東大コンプレックス」を克服していたから、特別な経験や肩書きにこだわって足を止めることはなかった。

 EDMも和楽器も、僕に取っては未知の世界だった。和楽器の演奏について調べて、ダンスミュージックを作り始める。曲の題材にしてもそうだ。みんなが知っていて、取っつきやすい人って誰だろう。どんな出来事だったら、抵抗なく聞ける?一人で全部やっていると「ひとりよがりな作品」になりがちだ。それじゃ意味がない。僕はいろんな人に相談した。歴史好きじゃない、いわゆる「一般的な感覚」が知りたかったのだ。

 思いのほか、否定的なアドバイスが多かった。
「難しそう」
「腐女子は喜ぶんじゃない?でも自分はわかんないな」
「外国人にしかウケないよ。でもその外国人てライブハウス来ないし」
「外国人だって、簡単なことしか知らないでしょ」
「おもてなしの本当の意味?興味ない」

 散々だった。今までなら心が折れて、次のことを考えていたかもしれない。けど、そのときの僕は日本文化・歴史を残していくことの大切さを確信していたし、自分の話でたくさんの人を笑顔にしてきた自信もある。エンターテイメントとして成立する方法だって見えていた。迷いはなかった。

 バンド関係の知り合いに歴史が好きで御朱印集めをしている人がいた。僕がやろうとしていることを伝えると、二月の主宰ライブでやってみない?と言ってくれた、

「失敗してもいいよ。観てみたい」

 オープニングアクトで二十分。それが僕がもらった時間、サムライRYOの誕生に与えられた時間だった。シークレット扱いだったので、集まったお客様のお目当ては当然その日のライブ出演者だ。受け入れられるんだろうか。ヤフオクで四千円で購入した坂本龍馬のコスプレ衣装に着替え、僕は坂本RYO馬になった。

 『誰でも今すぐ龍馬』『ダンシング江戸時代』『舞い散るサムライ』この三曲を熱唱した。オープニングアクトに現れた和服のコスプレ野郎にお客様は一瞬ザワついたが、蓋をあけてみると、めちゃくちゃウケた。出演バンドのギターの方が三味線もやっている人で、その人も「すごくよかった」と評価してくれた。

 手応えは十分すぎるほど、あった。

続く(この連載は毎週月・木曜に更新します。)
【これまでの連載のまとめ】

《出版社募集!》
本連載は「なんでサムライなの?バンドやってたって本当?は!?歴史?っていうか東大?株式会社??わけわかんない・・・・」という疑問にお答えするべく、紫式部さんにインタビュー・執筆して頂きました。

同時に企画書も公開して、出版社も募ります!
企画書【現役東大生社長 職業:サムライ(仮)】
矢文(メール)はryo@dothesamurai.comまでご連絡下さいませ。
これまでの連載はコチラ!

RYO!

プロフィール
株式会社DO THE SAMURAI 総大将(代表取締役) / プロのサムライ
東京大学文学部。
在学中より「サムライを切り口に、日本の文化や歴史に’楽しく’触れるきっかけをつくる」という志のもと、毎週、世田谷松陰神社の歴史資料館で塾を開講、史跡ツアー・歴史イベントを主催。
そして、2016年4月に法人化。仲間とともに新たなスタートを切る。
株式会社DO THE SAMURAIでは、
「’日本から世界へ”国内の地域から地域へ、
日本人一人ひとりが文化や歴史を発信できる’外交官’に」というビジョンのもと、
地域の歴史ブランディングなど新たな事業に取り組んでいる。
講演依頼、問い合わせなどはryo@dothesamurai.comまで。
Twitter:https://twitter.com/RYO_ReaL
Facebook:https://www.facebook.com/ryo.real.7
株式会社DO THE SAMURAI:http://dothesamurai.com
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