【2章ー2】足りなかった二十点 一浪決定

【2章ー2】足りなかった二十点 一浪決定

【1章のまとめ】
【2章ー1】魔法の杖〜東大受験本格始動〜

夏休みは勉強漬けの毎日だった。……と言いたいところだが、僕が職業として目指しているのはミュージシャンだ。気分転換も兼ねて久しぶりにバンドやらない?とメンバーに声をかけてみたら、みんな乗り気になってくれた。春休みに解散ライブをやったばかりではあったが「一日限りの復活ライブ」と銘打って開催。これまた大いに盛り上がった。

九月。学校のビックイベントは文化祭と体育祭だ。高校生活最後のその日を楽しまないわけにはいかない。文化祭のオープニングでバレー部の女の子達と野球部の友達でハモネプに挑戦、B’zの『LOVE PHANTOM』を熱唱した。クラスの出し物では体育館で、劇『千と千尋の神隠し』兄役で、浴衣を着た女の子達にキャッキャ言われながら思う存分歌い踊った。

さらに秋が深まる頃には、物理の授業の一環として、毎年恒例『ロボットコンテスト』が開催された。十二時間くらいかけて行われるこのイベントは、物理の先生の完全なる趣味で、受験にはまったく関係ない。無駄な時間だと嫌々取り組み始めたが、「フィルムケースをいかに早くたくさん運べるか」アイデアを出し合い、ロボットを組み立てる面白さは、僕や友達を熱くした。

残り少ない高校生活はそんな感じで過ぎていった。受験の日が近づいてくるにつれ焦り始めた友達は塾の受講時間を増やしたり、行っていなかった友達も塾に通い始めたりと、忙しくしていた。しかし僕は「自分の頭で考えて勉強すべきだ」と思っていたから、自分で決めた学習スケジュールを着実にこなしつつ、独学で来るべき日に備えていた。

平日は学校の自習室で勉強、帰宅し夕食を取り勉強。土日は多治見市の図書館が入っている「まなびパーク」、通称まなパの自習室で勉強していた。そこには塾通いをしていない友達がみんな集まっていて、お昼になると一緒にごはんを食べに行くのだが、僕は持参したパンを一つ、こっそり食べるだけ。ストイックだった

センター試験まで一ヶ月に迫った十二月初旬のこと。一緒に東大を目指していた友達が、突然「やっぱり東大やめて京大にする」と言い出した。自分の学力とやりたいことを正面から見つめ直した結果、導きだした結論だった。

自分より賢い友達が希望校を変更したのだから、普通は動揺するだろう。けど、僕は良くも悪くも能天気に「まあ、いけんじゃない」と思っていた。「学力は最後に伸びる」というお決まりの励まし文句を本気で信じていた。このときまでに受けた模試はすべてE判定だったというのに……。

大晦日。一年前の彦根城での誓いを実現するため、祖父母の家に帰省する家族を送り出し一人家に残って勉強した。いよいよ勝負の年がやってくるのだ。そう思うと少し緊張が走る。それを打ち消すように一人すき焼きを食べ、紅白を観てAKBに癒された。推しメンは高橋みなみ、たかみなだ。

センター試験対策にやったことと言えば、学校で指定される課題や問題集だけだったのだが、結果はよかった。いい感じだった。友達は自己採点の結果を受けて志望校を見直し、それに合わせて勉強内容を変えたりとソワソワしていたが、僕は東大一本。滑り止めの私立受験もなし。センター試験翌日から二次試験に向けてラストスパートをかけていく。春を迎える頃には東大生だ。上京するんだ。魔法の小枝に見守られながら、過去問をどんどん解いていく。自分の決めたスケジュール通りに、毎日十数時間勉強していた。努力は必ず報われる。そう信じて。

いよいよ二次試験の日がやってきた。

二次試験は二日間に渡って行われる。岐阜からスーツケースいっぱいに、使っていた参考書を詰めて上京。前泊したホテルで、僕は寂しさと戦っていた。初めて一人で宿泊し、いきなりホームシックになっていたのだ。気分転換につけたテレビでは、『踊る!さんま御殿』が放送されていたのだが、その日のテーマが『東京に来てビックリした事』『私が思わず故郷に帰りたくなる瞬間』で、ホームシックがさらに助長された。

続けてドラマ『メイちゃんの執事』を観て、吉野家でご飯を食べた。『メイちゃんの執事』の主題歌を歌っていたロッカトレンチというアーティストは東大出身。「東大卒ミュージシャン」である彼らに希望を抱いていた。同じ道を行くのだ。と一人ホテルの部屋で気持ちを奮い立たせた。

そして入試当日。夏以来の東京大学本郷キャンパスに足を踏み入れる。有名高校の学生服集団や、浪人生と思われる私服の受験生、日本中から集まった東大志望者が、みんなそれぞれの過ごし方で試験開始時刻を待っていた。僕はと言えば、赤色の三本線アディダスジャージ上下に身を固め、その緊張が渦巻く会場の中にいた。

「都会の進学校に通うハイブリッドなお坊ちゃまとは違うんだ。雑草根性なめんな。これがROCKだ。」

二月二十六日夕方。試験がすべて終了し、僕は赤門を後にした。

東京から岐阜へ帰る新幹線の中で、僕は終わったばかりの試験を思い返していた。
正直、手応えはなかった。いや、それは自分でも分かっていたことだった。これをやればいいと思っていたところまで、受験勉強が進まなかったのだ。

「これくらいの感じで合格しちゃダメだな」

不完全燃焼な気持ちは、すでに来年の東大受験に向いていた。

結果。二十点足らず。僕の浪人生活が決定した。

続く(この連載は毎週月・木曜に更新します。)

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本連載は「なんでサムライなの?バンドやってたって本当?は!?歴史?っていうか東大?株式会社??わけわかんない・・・・」という疑問にお答えするべく、紫式部さんにインタビュー・執筆して頂きました。

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RYO!

プロフィール
株式会社DO THE SAMURAI 総大将(代表取締役) / プロのサムライ
東京大学文学部。
在学中より「サムライを切り口に、日本の文化や歴史に’楽しく’触れるきっかけをつくる」という志のもと、毎週、世田谷松陰神社の歴史資料館で塾を開講、史跡ツアー・歴史イベントを主催。
そして、2016年4月に法人化。仲間とともに新たなスタートを切る。
株式会社DO THE SAMURAIでは、
「’日本から世界へ”国内の地域から地域へ、
日本人一人ひとりが文化や歴史を発信できる’外交官’に」というビジョンのもと、
地域の歴史ブランディングなど新たな事業に取り組んでいる。
講演依頼、問い合わせなどはryo@dothesamurai.comまで。
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株式会社DO THE SAMURAI:http://dothesamurai.com
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