【2章ー4】夢は見るものではなく叶えるもの。夢を叶えること、それは強い意志を貫くこと

【2章ー4】夢は見るものではなく叶えるもの。夢を叶えること、それは強い意志を貫くこと

【1章のまとめ】
【2章ー1】魔法の杖〜東大受験本格始動〜
【2章ー2】足りなかった二十点 一浪決定
【2章ー3】予備校、辞めてもいいですか?

日本一暑い町「多治見」。日本国内の最高気温四〇.九度を最初に記録したその町で僕は育った。本当は東京にいるはずだった二〇〇九年夏、予備校をやめた僕はその町で毎日を過ごしていた。東大受験に対するモチベーションは相変わらず低いままだったが、ミュージシャンになる夢に対する情熱は取り戻しつつあった。

となると、やはりバンドだ。

高校で別のバンドを組んでいた友達に声を掛け即席バンドを結成しバンドコンテストに出場したり、夏祭りで演奏したり。高校のバンドメンバーにも声をかけて、またもや一日限りの再結成ライブで盛り上がった。

人間にとって「目標を持つ」というのはやはりとても大切なことらしい。バンド漬けの八月はとにかく楽しくて、久しぶりに生き生きしている自分が誇らしかった。勉強はというと、予備校辞めたからという理由で購入してもらっていた英字新聞「ジャパンタイムズ」を辞書を引きながら午前中かけて読む。これだけだった。アメリカのヘヴィメタル『メタリカ』を聴きながら行うその作業が、僕の唯一の日課だった。

ライブがすべて終わってしまうと、またその日課以外、やることがなくなった。家にいても肩身が狭いので、朝母親がパートに行くのに合わせて駅まで送ってもらい、まなびパークで読書する。夕方になると、まだ熱気の残る町をぷらぷらしてから、家路につく。そんな毎日だった。

民主党が総議席の三分の二に迫る三〇八議席を獲得し、歴史的な政権交代に日本中が沸いた八月最後の日曜日、僕はあっきーとカラオケにいた。お互い好きな歌を片っ端から入れて思いっきり熱唱する。次の曲を選びながらハモってみたり、物真似しながら歌って自分に酔いしれたり。そのうち一息ついたあっきーがぽつりと言った。

「亮、どうすんの?」

次何の曲歌う?何か飲み物頼む?そういうのとは明らかに違う声のトーン。いつまでもこのままいられるわけじゃない。見て見ぬ振りをしてきたけど、そろそろ考えなきゃいけないことなんだ。そうは思っても、また前みたいに東大を目指そうという気持ちにすぐなれるわけもなかった。あっきーの問いかけに答えようとするが、言葉が出てこない。しばらく沈黙した後、ようやく出てきた言葉は、

「……まあ」

その後、二人が選ぶ曲はバラードになった。

九月になっても、僕はまだ答えを出せないまま、朝からまなびパークで読書したり、少し散歩したりという生活を続けていた。
八月の終わりにAKB48とSMAPのCDが同日販売されたことでテンションが上がっていた僕は、よく一緒にカラオケに行っていた友達に「AKB48しばりのカラオケ」をやろうよと声をかけた。当時、AKB48の曲はまだ数が少なく、あっという間に終わってしまい、結局同じ曲を三周くらい歌い続けた。

歌い疲れた僕らはファミレスでごはんを食べることにした。注文したカレーを食べ始めると自然に口数が少なくなる。そんな中、何の前触れもなく、友達はこう言った。

「亮君。東大受けてもさ、どうせ落ちるやらぁ?だったら、あと半年だけ、頑張ってみたら?」

どうせ落ちる……。そうだ。どうせ落ちるんだ。必ず受からなきゃいけないわけじゃないんだ。「絶対」じゃなくていいんだ。

そう思うと、急に気持ちが軽くなった。

表面上は毎日楽しく過ごしていても、頭の中では将来が見えない、先行きのなさから来る不安が膨れ上がっていた。現実逃避を続けてもどんどん辛くなる一方で、限界に達しそうなのを無理に隠そうとする僕のヘタクソな空元気は、友達みんなにバレバレだったようだ。

あと半年か。人生五十年としても、たった百分の一の時間だ。悔いのないように。

家に帰ると、僕はノートを取り出して、受験計画を練り直した。やり方は高校のときと同じ。合格レベルに到達するまでに必要な勉強を書き出し、受験日から逆算してスケジュールにはめ込んでいく。

……イケるやん。

もともと物理も科学も数学も合格レベルに達していたんだから、弱点はやっぱり「英語」だ。その英語も、駿台の竹岡先生のおかげでコツを掴んだ感じがあるし、英字新聞を読む日課だって休まず続けてきた。

ふと顔を上げると「魔法の杖」が目に入った。そうだ。半年後、僕はあのキャンパスを歩いているんだ。東大生として!

一旦スイッチが入ってしまえば、あとはもう勝手に身体が動いた。自分で決めたスケジュールに合わせて、高校のときと同じ問題集を進めていく。どんどん勘を取り戻して、ストイックな勉強も当たり前のようにこなしていけるようになった。

現役のときと一つ違ったのは、家族との接し方だった。なんせ、半年後には東大生として上京するのだ。家族と一緒にこの家に住むのはもう最後。そう思うと、積極的に家事を手伝うようになったし、自炊するときのためにと母親から料理を教えてもらっては、アレンジしてみたりした。

十月になると、毎週のように模試が開催される。だが、僕は一切模試を受けなかった。一度くらい、と親や友達は勧めてくれたが「意味ないし」と断っていた。嫌いな電車に乗って会場へ行き、一日かけてテストを受ける。自分にはその時間は無駄だと思ったし、家にある過去問を解けば自分のレベルはちゃんと認識できるからだ。

心機一転、一心不乱に勉強時間を重ねていく。お昼を食べながら観るAKB48の動画一本。それが最大のリフレッシュであり、ご褒美だった。AKB48にはほんと救われたし、大好きだったから、息抜きに一人でダンスの練習をしてみたり、『RIVER』のギターの音をコピーしてみたり。そうそう、『RIVER』の発売日である十月二十一日、読売新聞に見開き広告が掲載された。よく勉強に利用していたまなびパークに置いてあった読売新聞全て、そのページを開いて置いてまわった。一階から七階全部。達成感がハンパなかった。

そんな感じで、再開した受験勉強は順調だった。とはいえ、やはり不安になったり、それをごまかしたり、僕の内面はまだ不安定だった。そんなとき、これまた大好きだったGacktさんが、気分が落ち込んだときブラックマヨネーズの漫才を観て元気を出していると知り、早速観てみた。

ハマった。面白すぎる。

お昼を食べながらAKBとブラマヨの動画を一本ずつ観るのが新しい日課となる。AKBの動画を観て元気づけられ、ブラマヨの漫才を観て笑って、
「ああ、ちゃんと笑える。まだ大丈夫。」と確認するのだ。

この頃母親とのお決まりのやり取りが生まれる。毎週火曜の朝、繰り返される会話。

「スマスマ録ってあるけど、観る?」
「観いひん」

まあ、さすがにSMAPを我慢すると身体に悪いので、これまたお昼を食べながら一.五倍速で観たが。

秋になり寒くなってくると、徹底的に健康面でも自己管理を始めた。風邪なんて引いたら計画が台無しだ。常にマスクをして、甘酒とあったかいレモネードをたくさん飲む。友達と会うこともない。そもそも連絡も取らなかった。大学生には気を使うし、浪人仲間には現状を伝えていたから連絡する必要もない。何より、人に会わなければ、うっかり悩みを聞いてしまって心を乱されることもないし、頭の使い方全部自分の意志で決めることができるのだ。

十二月二十五日。一年ぶりにセンター試験の勉強をした。終わったらクリスマス特番のMステがご褒美だ。楽しみすぎる。

意気込んでセンター試験の過去問を解き始めたものの、問題を解き進めていくにつれてどんどん焦っていく。全然できない。何だこれ。地理とかまったく分からない……。結果、採点してみると、百点以上足りなかった。最悪だ。ずっと二次試験の勉強をしてきて、自信もついてきていたのに。まさかの落とし穴だった。

愕然としながら、僕はつい二日前に発売されたばかりのGacktさんの言葉が詰まった本『Gacktionary(ガクショナリー)』を手に取る。

「夢は見るものではなく叶えるもの。夢を叶えること、それは強い意志を貫くこと。」

「ピラミッドを作るときも設計図があれば組み上げていくだけ。組み上げる過程で辛いことがあっても、強い意志でやり抜くだけ」

目頭が熱くなる。そうだ。意志を貫くんだ。それだけだ。

それから数週間、センター試験問題を毎日一年分解いた。心が折れそうになったらガクショナリーを読む。気持ちを奮い立たせて、また問題に挑む。その繰り返し。もう不安とかどうでもよかった。ただ、やり抜くだけだ。

二〇〇九年も終わりを告げようとしていた。

続く(この連載は毎週月・木曜に更新します。)

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本連載は「なんでサムライなの?バンドやってたって本当?は!?歴史?っていうか東大?株式会社??わけわかんない・・・・」という疑問にお答えするべく、紫式部さんにインタビュー・執筆して頂きました。

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RYO!

プロフィール
株式会社DO THE SAMURAI 総大将(代表取締役) / プロのサムライ
東京大学文学部。
在学中より「サムライを切り口に、日本の文化や歴史に’楽しく’触れるきっかけをつくる」という志のもと、毎週、世田谷松陰神社の歴史資料館で塾を開講、史跡ツアー・歴史イベントを主催。
そして、2016年4月に法人化。仲間とともに新たなスタートを切る。
株式会社DO THE SAMURAIでは、
「’日本から世界へ”国内の地域から地域へ、
日本人一人ひとりが文化や歴史を発信できる’外交官’に」というビジョンのもと、
地域の歴史ブランディングなど新たな事業に取り組んでいる。
講演依頼、問い合わせなどはryo@dothesamurai.comまで。
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